ご案内くださった大森俊貫さん
7月、9月、11月に開催し、ご好評をいただいた世界遺産・興福寺(奈良市)の「早朝貸し切り拝観」第4弾を2021年12月11日(土)に開催しました。今回も定員の倍以上の方からお申し込みいただくほどの人気でした。今回は、伽藍の中心である中金堂を特別に拝観させていただきました。
この日の案内役は、興福寺庶務部副主任の大森俊貫(おおもり・しゅんかん)さん。さまざまな時代の境内の写真パネルを示しながら、境内の変遷などを語ってくださいました。
午前7時45分に南大門跡に集合。復元された基壇の上に立ち「ここはもともとはお寺の入り口だった場所。ご案内をここから始めたのもそのためです」と紹介しました。奈良時代初めに藤原不比等によって創建された後、約100年ほどかかって中心伽藍が整えられたことを説明し「それでも現在、残っていないお堂があるのは、興福寺がとても火災の多いお寺だったからです」。ここで大森さんからクイズが。「興福寺はこれまで、何回くらい火事に遭っていると思いますか」。「5回」という声が上がりましたが「もっと多いです」。「10回だと思う方、手を挙げてください。では20回だと思う方。30回、40回」。60回を超えたあたりで手を挙げる人はいなくなりましたが、なんと「記録に残っているだけで、大小合わせて150回以上です」。参加者の皆さんから驚きの声が上がります。「落雷や戦火が原因です。しかも建物が密集しているので、類焼しやすかったのです」。しかしその後も再建が繰り返され、現在に祈りを伝えています。
さまざまな時代の境内を写した写真を紹介しながら説明する大森さん
また明治時代の神仏分離によって、大きく境内地が減らされました。「現在、県庁がある場所や、大宮通もかつてはすべて境内でした」。一帯は奈良公園となり「門も塀もなく、どこからでも入れる今の興福寺となったのです」。かつては、東金堂の前を車が通行するような状況だったそうです。
五重塔をバックに解説する大森さん
五重塔の前に移動し、中金堂を望みながらその復元工事についても解説。1717年の火事で中金堂が焼失した後は篤志家の寄進でできた仮のお堂がありましたが、平成になって境内整備が進められ、中金堂の本格的な復興が始まりました。「仮のお堂が解体されて最初にするのは発掘調査。この周辺は土壌が良いためか、残っていた柱の礎石66基のうち、64基は1300年前の創建当初のものがそのまま残っていました」。その規模を保ったまま復興が進められましたが、「遺構は壊すのではなく、覆って保護した上で基礎を作っています」。地下には、今も奈良時代の基壇跡が現役でお堂を支えているのです。
中金堂前で解説する大森さん
いよいよ中金堂を囲む塀の中へ。基礎だけが復元された回廊を歩きながら大森さんは「回廊は一つの結界。基礎だけでも整備することは重要な意味があります」と話します。2018年10月にあった落慶法要は、お堂の中ではなく、前庭で営まれました。「金堂は、お堂自体が巨大なお厨子のようなもので、仏様の空間。本来は人はその中には入りませんでした。そのために法要も外で営まれたのです」。しかしこの日は特別に堂内も拝観させていただきました。
普段は入れない中金堂の中へ
堂内でまず目に入るのは金色に輝くご本尊の釈迦如来坐像。「本来のお姿に修復できたのは、指定文化財ではなかったから。国宝や重要文化財のお像は現状を維持しなければならないので、このように復元はできません」。祈りの対象としては本来のお姿が望ましいとのことですが、時代を経た薬王・薬上菩薩像、四天王像のお姿もまた美しいものです。
中金堂の中では、金色に輝く釈迦如来坐像や、鮮やかな色彩の法相柱を拝観
ご本尊の向かってすぐ左側には、鮮やかな彩色で僧侶の姿が描かれた柱が。「法相柱といい、インド、中国、日本の法相宗の祖師たちの姿を描いた柱です。平安時代の記録にこの柱の存在が書かれており、今回復元しました」。運慶が造った北円堂の国宝像で有名な無著・世親菩薩の兄弟や、「三蔵法師」の名で知られる玄奘三蔵などの姿もありました。
お堂には海外の木材が使われています。「大きな柱はカメルーンのアフリカケヤキ。他にカナダの材もあります」
朝の光を浴びる中金堂の柱
さまざまな困難を乗り越え、約300年ぶりに復興した中金堂。「伽藍の中心が整備されたことで、ここが公園ではなく信仰の場であることが分かりやすくなりました」と大森さんは笑顔を見せ、「復興はまだ続きます」と力を込めました。これからも祈りの空間が守られていくことを願わずにいられませんでした。
午前9時に解散。名残惜しそうになさっている参加者の姿もありました。大森さん、参加者の皆様、ありがとうございました!
4回にわたり開催した興福寺の早朝貸し切り拝観はひとまずこれで一区切り。今後も新たな企画をして参りますので、引き続きご注目ください!
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